東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)176号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1 請求の原因四、1の主張について
(一) 成立に争いのない甲第五号証によれば、引用例記載のジエツトポンプは、ノズルから混合室内へ噴出する高速の流れ(駆動流体)が周囲の流体(送り出される流体)を伴つて進む間に、これと混合して共通の速度となり、更に広がり部(デフユーザ)において減速増圧する形式のもの(引用例第五〇六頁左欄第三行ないし第七行)であり、審決が、本願発明との対比に当たり、引用例記載のジエツトポンプの構成を認定する資料とした、引用例の第五〇六頁右欄に掲載されている図4・55及び図4・56(a)は、別紙図面(二)記載のとおりであること、引用例記載のものにおいて、駆動流体と周囲の流体との混合は、主として、別紙図面(二)図4・55の0―2の間で行われること(同右欄第一行、第二行)が認められる。
右認定事実によれば、引用例記載のものにおいては、別紙図面(二)図4・55の0―1間においても駆動流体と周囲の流体との混合が行われることは明らかである。
ところで、別紙図面(二)図4・56(a)に記載されている、11と11+12との各長さの関係からしても明らかなとおり、前記0―1の部分が前記0―2の部分に対して占める割合は極めて小さいものと認められ、したがつて、右0―1の部分で混合される駆動流体と周囲の流体の量は少量であると認めるのが相当である。そして、前掲甲第五号証によれば、引用例には、右0―1の部分で混合が行われるのは同部分を絞込機構としたことによるものであるという趣旨の記載はないことが認められる。
右認定事実によれば、引用例記載のものが右0―1の部分に絞込機構を設けているのは、駆動流体と周囲の流体との混合のためというよりは、むしろ、周囲の流体が太い入口管から細い直管に抵抗の少ない状態で円滑に流れ込むことができるように案内する機能を持たせるためであると認めるのが相当である。
右認定の趣旨に反する原告の主張は採用できない。
(二) 他方、本願発明の要旨は前示のとおりであつて、周囲の流体(吸込流7)の絞込機構を設けることをその要旨とはしていない。
ところで、成立に争いのない甲第三号証、第四号証によれば、昭和六〇年一月二九日付け手続補正書添付の図面第六図には、本願発明の実施例である、ノヅルと対向開口する直管の構造を示すものとして、下部にフレア状の部分を設けたサヤ管11の上部を止金具33により直管2に固着するものが記載されていること(別紙図面(一)第六図参照)、本願明細書(昭和六〇年一〇月二四日付け手続補正書添付の明細書)の発明の詳細な説明には、「11のサヤ管は受入口14を加減するものである。」(第五頁第七行、第八行)と記載されていることが認められる。
右認定事実によれば、本願発明はサヤ管11を直管2に取り付けた態様のものをも含むものであるが、止金具33を調節することによりサヤ管11の取付位置を上下させることができ、これを直管2の下端に取り付けた場合には、ノヅル1はサヤ管11によつて囲まれるような状態となり、サヤ管11が前記のような形状となつているために、サヤ管11は吸込流7を直管2に案内する絞込みの機能を営むものであると認めるのが相当である。
したがつて、本願発明は、絞込機構を設けることを排除していないものというべきである。
次に、前掲甲第四号証によれば、別紙図面(一)第一図ノ一及び第一図の二はいずれも、本願発明の基本的な考え方を示す実施例図面であることが認められるが、右各図面に記載されているように、ノヅル1と対向する直管2の開口部を周囲の流体中に入れて使用する場合において、絞込機構を設けたときは、それを設けないときより周囲の流体が抵抗の少ない状態で直管2に円滑に流れ込むものであることは、技術的に自明の事項に属するものと考えられる。
したがつて、本願発明を実施するに際して、絞込機構を設けないからといつて、そのことにより格別の利点が生じるものとは認め難く(甲第七号証の一ないし三、第八号証の一ないし四は、絞込機構を設けないことによる利点があることを裏付けるものではない。)、単に絞込機構を採択しないというにすぎないのであつて、特段の技術上の意義は存しないものというべきである。
右の点に関連して、原告は、本願発明は混合を必要とせず、絞込機構を設けていないために、駆動流体と周囲の流体との衝突混合による損失水頭はないから、絞込機構がないことによる効果は顕著である旨主張する。
しかしながら、本願発明が、引用例記載のものと同様にジエツトポンプであることは、その要旨からいつて明らかであり、所期の目的を達成するためには、駆動流体と周囲の流体とを必ず混合しなければならないことは技術常識に属する事項であるといつてよく、また、本願発明は、吐出水流をノヅルから高速に吐出させるときに生ずる負圧形成効果を利用して水や物を直管内に押入するものであるから、乱流が生じることは避けられないものと認めるのが相当である。そして、前記のとおり、本願発明は絞込機構を設けることを排除するものではないが、絞込機構を設けた場合には、それを設けない場合に比して、周囲の流体が直管に抵抗の少ない状態で円滑に流れ込むことができるので、むしろそれだけ損失水頭は少ないものと解される。
したがつて、原告の右主張は採用できない。
(三) 以上のとおり、引用例記載のものにおける絞込機構は、駆動流体と周囲の流体との混合のためというよりは、周囲の流体が、直管に抵抗の少ない状態で円滑に流れ込むことができるように案内する機能を有するものであるところ、本願発明は、右と同一の機能を有する絞込機構(サヤ管11)を設けることを排除しておらず、また、本願発明の実施に当たつて絞込機構を設けない場合にも、その点に特段の技術上の意義はないから、審決が、本願発明と引用例記載のものとの相違点として絞込機構の点を挙げなかつたことに誤りはない。
したがつて、審決には相違点の看過があるとする請求の原因四、1の主張は理由がない。
2 同2の主張について
前記1項に認定のとおり、引用例記載のジエツトポンプは、ノズルから混合室内へ噴出する駆動流体が周囲の流体を伴つて進む間に、これと混合して共通の速度となり、更にデフユーザにおいて減速増圧する形式のものであつて、駆動流体と周囲の流体との混合は主として別紙図面(二)図4・55の0―2間で行われるものであるから、デフユーザ(同図の2―eの部分)は混合室(右0―2の部分)で混合され共通の速度となつた流体(駆動流体と周囲の流体)を減速増圧することを目的とするものであつて、駆動流体と周囲の流体とを混合することを目的とするものではないと認められる。更にこの点をふえんすると、引用例記載のものにおいては、混合により駆動流体が周囲の流体を伴つて進むものであり、これが駆動流体で周囲の流体を汲み上げるポンプ作用をなすものであつて、デフユーザがポンプ作用を営むものではなく、混合室(前記0―2の部分)のみのポンプ作用では吐出圧力が低く、タンク等に高く揚水することができないので、混合室から吐出される駆動流体と周囲の流体を減速増圧して、高い吐出し液面(別紙図面(二)図4・55のD)が得られるようにしているものと認められる。
右認定に反する原告の主張は採用できない。また、甲第九号証の一ないし三記載の実験に用いられた器具のデフユーザの位置は、引用例記載のものにおけるそれと異なるから、同号証記載の実験結果をもつて、右認定を左右すべきものとは認め難い。
したがつて、高い吐出し液面の必要がない場合、すなわち、減速増圧の必要がない場合には、デフユーザが不要であることは当然のことであるから、本願発明と引用例記載のものとの相違点について当業者が必要に応じて容易になし得ることであるとした審決の判断に誤りはなく、請求の原因四、2の主張は理由がないものというべきである。
なお、原告は、引用例には流体をデフユーザを介して高所に送るという記載はない旨主張するが、引用例に右記載のあることは別紙図面(二)図4・55の記載から明らかである。
また、前掲甲第五号証によれば、引用例の第五〇六頁右欄には別紙図面(二)の図4・56(b)が記載されており、同欄図4・55下第五行ないし第一一行には、右図について、「(b)は平行部をもたないが、のど部から広がり部へ自然に移行する間にじゆうぶん混合と減速増圧ができるよう広がり角度を小さく長さを長くしたものである。」と説明されていることが認められ、右認定事実によれば、右図4・56(b)記載のポンプは混合と減速増圧とを行うものであることが認められるが、審決は、本願発明と対比すべきものとして右図記載のポンプを引用しているわけではない。
以上のとおりであるから、審決に原告主張の違法はないものというべきである。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
ノヅルから吐出する吐出水流に対向開口し、これと中心線を同じくし又はこれに近い角度の直管に向つて、高速に吐出する吐出水流を押棒として、直管内に充満して既存する水を押し上げ、同時にこれによつて生ずる負圧形成効果をも併用して、水や物を直管内に押入することを特長とする装置。